連載 使いみちのない時間・11
木目羅
丈久 了子
pp.990-994
発行日 2000年11月10日
Published Date 2000/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902302
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真弓は古い平屋建ての前で,家庭訪問専用のライトバンを止めた。少し苔生した本御影の庭石が,品の良いその姿を雨に任せている。右手には,以前開業していた医院の跡が,その名残を残していた。今日最後の訪問先であるこの家には,82歳を数える女性が1人で暮らしている。
「北条さん,お元気ですか。保健婦です」 真弓はゆっくりと,玄関の引き戸を引いた。わずかな力で,歯車が心地よく回り,香の残り香が静かに真弓を包んだ。玄関先の床は磨き込まれ,1日一度の配食サービスの発泡スチロールが場違いな姿をさらしていた。
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