特集 生活圏に注目しよう—人口の大小で保健活動の違いはあるか
生活圏とは何か
宮城島 一明
1
,
中原 俊隆
2
1世界保健機関食品栄養部食品安全課
2国立公衆衛生院公衆衛生行政学部
1WHO/FNU/FOS
pp.121-127
発行日 1995年2月10日
Published Date 1995/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662901092
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はじめに
人間に限らず,すべての動物は,日常生活を営む空間の範囲が自ずと決まっている。世界を翔るビジネスマンはともかく,単に食料を獲得したり,知り合いからゴシップ情報を獲得するためだけならば,多くの日本人は,自分の家からせいぜい数キロから十数キロの範囲内を動き回るだけで用が足りるだろう。この「用が足りる」範囲のことを,とりあえず生活圏と呼んで差し支えない。フランス語では,定住圏bassin d'habitatあるいは生活圏bassin de vieなどと呼んでいる。bassinという言葉には,「人為的に決めた圏域」というより,「自然発生的に形成されたまとまり」という意味があることに注意しておきたい。
市町村communeまたは共同体communautéが,語義に従えば,文化や価値を共有し,ときには共同して外敵に立ち向かう存在であるのに対し,生活圏は,住民が互いに分業をしつつ自らの一応の需要が満たされる範囲である。前者と後者が概念上区別されるのが欧州の伝統であるのに対し,両者の間に厳然たる区別がないのがわが国の特徴である。
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