特集 精神障害者に対する地域ケアの展開
地域ケア展開の視点と保健婦活動の再考—"暮らしの場"としての地域で精神障害者を支える
外口 玉子
1
1東京都精神医学総合研究所・医療看護研究室
pp.951-959
発行日 1987年11月10日
Published Date 1987/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662207418
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I.はじめに
私たちのめざす地域ケアは,障害をもつ人が地域社会における一個人として,生活を享受する諸々の権利をもつことを認め,その人なりの暮らし方をつくっていく上で必要な,具体的な援助を見いだしていくことにある。すなわち,周囲の人々の目にあまる不可解な言動や奇異にうつるしぐさや応答などを,症状や疾患として特定していく従来の対象のとらえ方や働きかけの方向とは異なるものである1)。地域ケア展開の基本的な視点は,人が障害をもちながらもより前向きに生きようとして,自分で自分の問題にとりくもうとする"自己対処能力"の発揮を支えることにある2)。障害者を生活の場から隔離する方向にではなく,地域内における医療とケアをどう保障できるかに重点を置くものである3)。
私はこの20年近く,保健所を中心とした精神衛生相談活動に参加してくる中で,「障害をもつ人が地域の中にとりあえず過ごすことのできる場や条件を確保すること」が,どんなにかその人の自己発揮を促すものかを,日々,新たな思いで学ばされつづけている4)。また,地域での生活の継続を困難にしているのは,病的体験のみでは決してなく,生活する上での諸々の不都合や不便さがその人におおいかぶさって,症状さえをも規定していることを思い知らされてもいる。
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