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<要旨>
基調講演――名寄女子短大学長の美土路達雄先生から,国民の日常生活がどのように変わってきているか,食物に焦点をあて具体的な数字を挙げて話され,大きな関心を呼んだ。子供がガム・チョコの氾濫の中から,ポテトチップスに,そしてインスタントめん類からハンバーガーにと好みを変えられていく蔭に,巨大な外食産業と日米の経済関係があること,このような状況下で健康を守る保健婦の役割は何かが明らかにされた。
グループ討議――①地区組織活動のあり方 いま,一番悩んでいる組織活動について討議した。いろいろな方法で組織活動に保健婦はかかわっているが,それぞれの地域の特性を重視する。運動の主体はあくまでも住民であり,しかし,専門家集団の多様な指導が必要である。組織活動は技術ではなく,住民の力に期待し,住民の健康を守っていこうとする専門職としての熱意と力量が問われている,という助言があった。
②母子の精神衛生 年々複雑になっていく社会環境の中で,育児不安,ノイローゼの母,失業家庭,出稼ぎ家庭,母子家庭等の事例が出された。いずれも保健婦だけの力では解決できない問題ばかりだが,福祉関係者の中から逆に保健婦をもっと利用しよう,という声も高まっているという意見もあった。多くの専門職と連携の輪を広げ,地域に多様な療育の場を保障していこう,と話し合われた。
③寝たきり老人への援助 寝たきり老人の訪問が民間委託になる状況を予測して,全市940人の老人訪問を実施した札幌市の経験と,最近特養に入所した老人の状況をふり返って,保健婦として何ができるのかを深く考えている小さな村の保健婦の報告があった。自主的な保健婦の企画で行った札幌市の全数訪問の経験は保健婦の"仕事づくり"についても考えさせられる討議となった。
分科会――①保健婦の仕事って何だろう 現場での悩み,工夫していることなどが話された。「保健婦はいらない」という動きもあることを認識したうえで,住民の要求を仕事に反映させること,憲法25条をしっかり生きたものにしていくこと,地域の実情に即した計画を具体的に実現していくために,保健所だけでなく,他職種との連携が必要である,をまとめとした。
②障害児の早期療育を考える 母子保健法が改定される前に,既成事実として市町村委譲がすすんでいる。道のモデル対策として岩見沢保健所が実施してきた脳性まひ早期発見対策を中心に,保健所の役割について話し合った。
③「母性保護」講師養成講座 札幌市職労婦人部の取り組みの報告を受け,単なる「女性の生理」の解説者であってはならないことが話された。男女雇用機会均等法の問題点などについて学習し,女性がどう扱われているかは,その国の人間が人間らしく扱われているかどうかのバロメーターである,との言葉に共感した。
④労働者の健康問題 労働者の健康を守る責任は事業主にあることの追求を忘れてはいけない。健診の結果を個別に返すだけでなく,その集団に特徴的な結果をまとめていく,自分たちの健康を阻害する因子に社会の一員として対応する「力」をつける,等の助言があり継続的に学習したい,という希望が強く出された。
⑤先輩の活動に学ぶ 札幌豊平保健所の中里淑子さんの歴史を学んだ。保健婦活動をしながら,平和運動,婦人運動,組合活動にも力を入れてこられた報告が生き生きとされた。
⑥貧困への援助 福祉事務所,病院に働くケースワーカー2人の参加によって内容が深まった。一見派手な消費文化の中で,貧困が見えにくくされている実態を認識して,専門職として,制度保障の充実とともに,現行制度の活用をフルにしていくことが大切,と話し合われた。
⑦結核の問題 過去の疾病となったかに見える結核が,最近道内何か所かで集団発生した。これをめぐって,徹底的に保健所と市町村の保健婦が学習し,対策を話し合ってきた網走保健所管内の報告は貴重であった。
記念講演:「医療行革」のねらいは何か,ME化,民間委託化される中で医療労働者はどうなるのか,などが話され,展望をもって住民と手を結んでいこう,と訴えられた。
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