特集 精神分裂病患者への技術論
ある父親の手記(1)—夜の次には朝がくる
R生
pp.22-28
発行日 1971年2月10日
Published Date 1971/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204843
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1 白紙の答案用紙
7年ほど前の秋のある日のこと,私たち夫婦は,長男の行っている中学校へ呼び出されていた。担任のO先生が,こう言うのである。「実は,お宅のむすごさんのようすが,少しおかしいのでおいでを願ったのですが。先日,クラスの子どもたちの顔を撮っておこうと思いまして,1人ずつ教室のかべの前に立たせたわけなんですが,お宅のI君のようすがおかしいのです。体をくねくねさせて,ちっとも落ちつかない,写真が撮れないのですね。それ以来注意していると,ナップザックを引きずって廊下をヒザで歩いていたり,どうも,ふつうではない。とくに困ったのは,教室でも,教科書をひらこうともせず,黒板の方も見ないで,ただボーッと坐っている,といったぐあいです。成績をみると,1年のときはクラスでも1番,それが,2年になったら,ビリから,2,3番になってしまっている。これは,ただごとではありませんね。」
O先生は,そう言って,最近のテストに長男のIが出した答案用紙を2枚ほど見せてくれた。それには,まったく答が書いてない。それだけならいいが,余白のところに,わけのわからない文字や模様のようなものが書いてある。人の顔も描いてあるが,不気味な目つきをした,いやな感じの顔であった。
Copyright © 1971, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.