生きている法律
第2回 社会保障行政戦前戦後—憲法25条の法律的な意味と行政的な意味
佐藤 進
1
1金沢大学法律学社会保障
pp.60-61
発行日 1968年5月10日
Published Date 1968/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204191
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警察権の一環だった戦前の衛生行政
戦前においては,医療行政・公衆衛生行政などを広く含む「社会行政」は,当時の公共的利益の見地から,「警察権」行政の一環として考えられてきた。わが国の明治時代の公衆衛生行政事務—伝染病予防,消毒,検疫,種痘飲食物,飲料水,医療薬品,家蓄屠殺,墓地火葬などは内務省警療部の所管として,「行政警察」による取締行政の対象であった。
この後,大正年代から昭和年代にいたるにつれて,わが国の資本主義の発展にともなって社会的問題が明らかになるにつれ,消極的な取締行政から,従来の公衆衛生行政の質的・量的な面における住民に対する積極的な福祉—母子保健・結核その他の疾病対策など—を中心とする指導育成行政に移らざるをえなくなった。満州事変(昭6(1931))中国戦争(昭12(1937))などを契機に,戦時健民保健対策を含む綜合保健指導機関として「保健所」が保健所法(昭12)にもとずいて活動することになったのも,それらの積極的な指導行政のつみかさねの一つであった。この結果,「行政警察」の対象から,「積極的な公衆衛を行政」の対象に移ることになる。
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