付録
カレンダー解説—フラゴナール(1732〜1803)
pp.36
発行日 1966年10月10日
Published Date 1966/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203758
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赤と黄を奔放に用いて描かれたこの絵は,若い娘のプロフィールの美しさをねらっている。フラゴナールの女の顔では,あるかなきかの眉が特色だが,ここでは横顔のため,その眉に陰影が刻まれて印象深い表情となっている。色彩の絢爛さに反し,安定した構図をもつ画面である。
ジャン・オノレ・フラゴナールはフランスの画家。グラースに生まれ,パリで死んだ。彼は18世紀の生んだ,まさに時代の子であった。燗熟した文化の申し子であるため,彼は感覚を制御するすべを知らず,時代に密接しすぎているために悲劇を悟らない。彼は陽気で気まぐれで,感覚のおもむくままに風俗を描きまくる。デカダンスの文明は,感覚の病的に繊細な人間をつくりだす。そして高度に洗練された芸術では,感覚こそすべてなのである。フラゴナールの前には,もはや政治も宗教も道徳もない。あるのはただ芸術--これのみである。24才から5年間のイタリア留学から帰国後,彼は社交界の寵児となったが,しかし,彼の晩年は,フランス革命の渦の中で,悲惨であった。
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