特集 精神分裂病の保健指導
精神分裂病の治療—■長期入院患者の社会復帰のために
柴原 堯
1
1京都府立洛南病院
pp.25-29
発行日 1966年3月10日
Published Date 1966/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203599
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はじめに
社会の発達にともなって,その経済構造が複雑となり,人的組織化が進み,交通機関の発達につれて人間の行動範囲が広くなるにつれて,人間対人間,すなわち対人関係が複雑となり,自己の属する地域社会,あるいは家庭内においてすらも豊富,円満な人間関係を中心として運営されなければならなくなりました.このような社会構造においては,個人が自己の欲望の充足だけを考え,自己中心的な行動をとると,必ず家庭内,社会内の他の個人に大きな影響を及ぼし,あるいは挫折し,あるいは失望落胆し,あるいは不満な解決をとらざるをえなくなります.私たちが毎日の現実生活を遂行していくためには他者との協調が必要不可欠となってきていますし,また他者との協調がなければ,自己の生活目的の完遂も不可能となつてきています.このような時代には,したがつて個人として最も重要なことは,ベルグソンがのべているように「現実をよく直視し,社会的な協調性を保持して他者と交わり,円満な生活を営み,健康にして調和のとれた柔軟な人間関係を自己の体験としてもちながら,なお自己の目的の実現への意欲にもえて進む」というあり方であります.
私たちの日常生活における健康なあり方をこのように規定すると,精神疾患者はなんらかの原因によってこのようなあり方を,私たちの世界,社会,家庭内においてとりえない,いわばアウトサイダーであると考えることができます.
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