社会の窓
おとなとこども
野口 肇
1
1評論家
pp.48
発行日 1963年10月10日
Published Date 1963/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202951
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倉橋由美子さんという学生出身の婦人作家が8・15終戦記念日について,ある新聞にかいていました--オトナたちが勝手にはじめた戦争のおかげで自分たち一家は四国の山奥に疎開し,ボンヤリくらした.そして8月15日「オトナの世界の崩かい,ああなんてバカバカしいことだろうと思っただけ」「喜劇を目撃したときから,私はオトナになるのをやめてしまったようです.あのとき9歳だった私はいま27歳で年だけはとり,しかしコドモのまま,無責任のまま……」だが戦中派のおじさんたち,戦時中のグチや戦争責任論はもうたくさん.「もっと年よりのかたは早く往生してください」いまは現代っ子が大量に生産されたので,「もう安心」だからまかせでほしい.「私のように民主主義も進歩も大して信じちゃいないコドモにとって」毎年この記念さわぎは「たいへん苦痛」だ,と.
ざっとまあこんな調子です.さてここにはずっとききあきた世代論,例の戦前,戦中派と戦後派との言語不通にちかい隔絶という主張のもっともソボクな原型があります.これは思想という体系立ったものではない.いわば,単純な生理上の実感です.
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