新刊紹介
"六無斎"外遊の生態
長谷川 泉
pp.109
発行日 1963年3月10日
Published Date 1963/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202794
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「三等院長のメモ」の著者三原七郎博士が欧米旅行記「外遊の生態」欧米ひとり旅—」(380円・稲垣書店刊)を出された.前著は,医人のエッセイストとして,洒脱な筆致のなかにあたたかいヒューマニストの心情を盛り込んで,日本の医療問題,病院管理問題の核心をえぐるものであった.今度の著は六無斎の海外旅行記といったもので,著者の無磯なものの考え方や人がらが,一歩日本を出て異域に遊んだ場合にどのような光彩を発揮するかということが如実に描かれている心楽しい本である.「六無斎」—とは,著者が冒頭に述べている海外旅行を楽しいものにする要素がそなわっていないことの謂である.曰く,べらぼうに金を持っているか,行った先々で手取り足取りして世話して貰えるだけの権力なり地位なり,名声なり,まともな語学力(相手のことばが自由に聞け,自分の思うことが自在に話せるだけの会話力)があるが,気心や歩調のぴったり合った道連れがあるか,何でも見てやろう式の若い情熱があるか,人の思惑や自分の体面など気にしないず太い神経があるか等々,そのどの一つも持ち合わせないことの謂である.
――と卑下する著者だが,著者の英語は各国で通用したし,またカタコトしかしゃべれぬというドイツ語はイントネーションよろしきを得たためにすこぶる上等だとほめられている.
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