コンタクトレンズ(38)
正月だけの東京の空
長谷川 泉
pp.51
発行日 1963年2月10日
Published Date 1963/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202757
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東京のスモッグ禍は,ほんとうのことをいえば,今に始まったことではなく,心ある識者には大気汚染と公害の問題として,心を痛めざるを得ないことがらであったのだ.それが去年の暮から急にクローズ・アップされたのは,スモッグで有名なロンドンに始まって,気象の特殊状況から広範囲にわたって各地を襲うようになったからである.ジャーナリズムのとりあげ方もかなりしつように神経質であったこともあげられよう.
ジャーナリズムのとりあげ方が,かなり神経質ではあったが,この問題の本質は,ほんとうはあんなものではなくて,もっと深刻なのであろう.ことは急に解決されるわけではなく,東京の現実からするならば,このような恐るべき状態は,ますますひどくなる一方であって,年と共にその被害がひどくなることが予想されるからである.学者とジャーナリズムが神経質になって,政治を動かし,世論をも背景として,問題解決の方向へ一歩を踏み出すことになったのは,公衆衛生関係者としては喜ぶべき現象なのだ.かつて,横浜ぜんそくという不名誉なことばが生み出され,それがまた東京ぜんそくという不名誉な,そして肉体をじょじょにむしばむ恐るべき毒ガス都市を生み出すようになったことが,何とか早く改善されるような方策がとられることは有難いからである.
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