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多摩全生園見学記
谷口 知加子
1
1千葉県保健婦専門学院
pp.37
発行日 1958年3月10日
Published Date 1958/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201595
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東京都北多摩郡東村山町に所在する癩研究所の多摩全生園を見学する.
東京都からはずれて池袋より清瀬に入り,清瀬より多摩全生園まで約15分間位バスにゆられて進んで行くと広い木々の塀にかこまれた癩療養所が見えて来る.一見した所人家の1群とも思われる赤瓦の家々が,点々と並び,十字架のそびゆる教会まで目につく.一帯は田畑でおおわれ,そこには百姓風の男の人が青野菜作りに余念がない.全生園の正面玄関にたどりつくまでに畑道を横ぎつて行つたが,その間に行き交う人々の顔,手は.私達には目新しいものばかりであつた.まず総婦長さんからの路案内があつて,病棟,その他家族寮,独身寮,保育所等見せていただいた.病棟には全科の病棟があり合併している人達が多いわけだ.家族寮と云うのは療養所内で結婚している家族の事で,不妊手術を行つているから夫婦単位でいるわけである.人間として人並みの生活をしたいがために.思えばあわれな人生だと思う.又保育所と云つている子供のみ収容している所では,学童期の子供が多く,やはり顔,手に少し見られる症状があつた,案外ほがらかそうに遊んではいたが,子供達の前途を考えると涙の出る思いがした.聖書の中にキリストは病める癩患者に手をさしのべるだけでその人の目は開き病は治つたという様な事が書いてあるが,癩の祖先は大昔から続いていてまだその力は滅びない.
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