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編集者から読者へ
所沢 アヤコ
1
1編集部
pp.10
発行日 1957年10月10日
Published Date 1957/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201502
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やわらかいウールのなつかしい季節になりました.
燈火親しむ頃ともなって,秋の夜長に,つらつらと自分を顧る事をよぎなくされております.思えば保健婦雑誌の編集にたづさわつて2年近くなりました.はずかしい話ですが,この雑誌の編集に関係するまで,私も保健婦さんの存在を知らず,保健所の必要を感じない世界におりました.以前私は,お芝居等を志し,新劇の世界に少々足をふみ入れておりました.私も含めて,みんな大変な生活をしていました.日中は体操やバレー,発声等の肉体訓練,それもはげしいものでした.この重い体でちゆう返りなどもやつてのけました.真冬には,火の気のない所で,耐えられなくなると走り廻つて体を暖めながら,深刻な思いで,劇中人物の性格を考えたりしました.そして栄養と云つても,お昼はコツペパンをかじるのが,みんなやっとの状態でした.サンドイツチマンをしたり,夜も喫茶店にアルバイトしたりするのが収入の道でした.その為に何人かの人々が結核でたおれて,仲間から離れて行きました.その問題の対策は,一時私達の間で燃え上りましたが,なんらの対策もたたず,ささやかなカンパ位で,線香花火のように消えてしまいました.思えばもつと予防の方法もあるはず,保健婦さん方に相談したりしなかつたかと思います.体が資本のくせに,きびしさというトウスイの陰に健康を無視した生活を送つている人々が,まだまだある事を感じます.
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