新刊紹介
—グレアム・グリーン—「おとなしいアメリカ人」
松本 一郎
pp.45-47
発行日 1956年9月10日
Published Date 1956/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201265
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戦後,困乱のるつぼと化したウイーンを舞台に,生きるためには最愛の恋人を捨て,罪ない幾多の生命を奪つても悔いないという謎の男をめぐつて,追う者と追われる者との凄惨な闘争をえがいた名作--というと,いかにも映画の広告文句のようだけれど,あのテイターの妙なる楽音におおわれていた映画「第三の男」は,たしかに名作であつた.不安な20世紀の世界情勢の渦中にまきこまれている様な人間像を,実にクツキリと,そして興味の尽きないスリラー的手法でえがいてみせたものである.「落ちた偶像」という映画もあつた.どちらも,特殊なシチユーシヨンの設定のなかに,微妙な人間心理を深くえぐつた作品である.両方とも原作は,グレアム・グリーン.
グリーンは1904年にイギリスのバークハムプラステツドに生れ,今年52才である.オクスフオード大学を卒業後,ロンドン・タイムスの記者をしていたが現夫人ヴイヴイアンとの恋愛・結婚を機にカトリツクに入信し,その処女作は「内部の男」という長篇である.以来,多数の長篇・短篇小説を発表,かたわら新聞に文芸批評や映画批評,あるいはルポルタージユなども書いている.現在英文壇の第1級作家である.
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