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療友として結ばれて
金胎 節子
1
1新潟県柏崎市大久保国立新潟療養所
pp.58-62
発行日 1956年6月10日
Published Date 1956/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201220
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Kさんお手紙有難うございました,単調な療養生活を送る此の頃の私にとつて今日の貴方のお便り程懐しく又嬉しく感じられたことはありません.にこにこ顔の看護婦さんから渡された見覚えのない筆跡の一通の封書,誰方だろう?一生懸命辿る記憶からはとうとう心当りの掴めない儘,不安と,当惑と,昂奮の複雑な面持で封を切るのももどかしく文字を追つて読むうちに私は始めて心当りのない疑惑から脱して思いは五年の歳月を一気に飛び超えあの時の訪問を最後に再びお目にかからなかつた貴方の面影が今度こそはつきりと浮んで来たのです.始めて戴いたお便り,それにS療養所という住所がお名前を惑わせたのでしようか,それとも四年の療養生活で働いていた日の記憶も既に遠くなりつつある悲しい実証なのでしようか.それにしても五年有余の保健婦業務を通して忘れることの出来ない貴方でしたのに……療養所に入所される動機--それが私の入所とおききして驚きましたがともあれそのお気持を持たれましたことは良かつたと安心し共にお歓び申上げるばかりです.療養所に対する古い先入観を捨てて良さを発見され,しかもあの重症の床であえいでいられた貴方が最近ではお便所にも一人で歩いて行ける程になられその上に春頃にもなれば庭の土も踏めるかも知れぬとの明るいニユースは殊の外私を喜ばせました.
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