紙上……希望コンサート

　私達には希望があり，理想がある．現在世界的に第一流の名演奏家を一堂に集め，希望の曲目を，又は演奏者の最も得意とする音樂を聽けたらとよく夢にまでも見るものである．

　そこで今月はこの希望コンサートを一夕開催いたしたいと思います．外国に於て第一流の名演奏家を掲げる場合には，3通りに区別する．第1は元老級，第2は壯年級，第3は青年級，この3種類にそれぞれの第一流がいる譯であるが，今回は元老級の第1流演奏家に御出演願うことにする．先ず北イタリアのパルマに生れ，チエロ奏者としてブラジルの首府リオデヂャネイロの歌劇場に勤めていたが，たまたま歌劇「アイーダ」の上演に指揮者の故障による代役を20才の若さで見事切抜け，やがて，スカラ座（イタリヤミラノ）メトロポリタンオペラハウス（アメリカ）の首席指揮者となり，今年満86才にしてなお2時間の演奏時間を要するベートーヴェンの第9交響曲，出演者300人を超える演奏を暗譜で指揮し，しかも若い指揮者の到底及びもつかない名演奏振りの名実共に現役の第一流指揮者トスカニーニ．