映画評
白魚
H
pp.59
発行日 1953年10月10日
Published Date 1953/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200618
- 有料閲覧
- 文献概要
上原謙扮するところの作家と原節子扮するところの未帰還のドクターの妻との間の愛情の問題を主題として,それに配するに岡田茉莉子扮するところの標準型アプレ娘の生態を彩りとした映画である.熊谷久虎監督でいゝ加減な作り方はしてないのだが,演出はぎこちなく,何よりも主題として設けられた原節子を追う作家の苦惱がぴんと来ないのが缺陥である.
作家には作品を生み出す苦しみがあろう.しかし上原謙の演じた作家はおよそ滑稽であつて,このような思わせぶりな苦しみ方からは作品は生み出せないであろう.病妻を失つた作家が未帰還の夫への思い出に生き,1人の愛兒をかゝえている原節子を追うことになるのだが,そのいやみなしつつこさは反感をかう以外の何物でもない.最後のシーンで富士山頂の曉光を背景に原節子が苦澁に満ちた醉余の作家を救うことになるのだが,現実ばなれのしたこの解決がロマンチツクにもひびかないで少しもきいていない.
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.