鏡下咡語
私の趣味
清水 哲夫
pp.74-75
発行日 1991年1月20日
Published Date 1991/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411900232
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1.幾何学
“趣味は何ですか”と聞かれると,とっさに答えられない。趣味を持っている人には,ゆとりを感じられるが,残念ながらその様なものがない。だが,それをしてさえいれば,他の事を何も考えられず,時の経つのも忘れられるものが趣味だとすれば,無いことはない。学生の頃よりユークリット幾何学が好きで,いまだに三角定規とコンパスは手元において,時折り図を書いている。教育テレビ講座で問題が出るとすぐスイッチを切ってしまい,それから考えるが,一週間くらい考え続けることがある。要はどこへ補助線を引くか,それが分ると一気に解決する。問題が難かしければ難かしい程,それを解いた時には一種の征服感にしたり,ビールがうまい。図を書いて夢中に考え込んでいる姿を見て,“頭の毛の白くなった受験生がいる”,とからかわれるが,言われるまでもなく,話の種にもならないので,独りで楽しんでいる。
だが,この幾何学的思考方法が骨膜下法の手術の論文作成に,役立ったのではないかと思われる。補助線を見つけ出す時の一種のヒラメキ,三段論法による類推思考,等価変換思考,特に複雑なものを抽象的に簡略化し表現する図形認識,これらが無意識的に思考過程に作用していたのではないかと思われる。また問題に対しては簡単にギブアップせず,執拗に考え続けることが,種々な困難を乗り切れた力につながったものと思う。何ごとにも当てはまるが,“続ける事は力なり”,と言える。
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