東西詞華集
嚴肅な時—ライナー・マリアリルケ 茅野粛々訳
長谷川 泉
pp.44-45
発行日 1952年5月10日
Published Date 1952/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200282
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古い貴族の後裔であるリルケの写真を見た人は誰でも感じることであるが中正な鼻,痩せすぎな上品な頬の線,広い額,澄みとおつて凄味さえある眼眸に打たれる。それは孤独と平静を愛した高貴な魂の所有者であることを示す顏貌である。リルケは批評家によつて女性の魂の持ち主と云われた。彼が最も愛したのは,繪本であり,人形であり,銀糸,孔雀の羽根,はては静にゆききする白雲であつたという。まさに女性の心にかようものを持つた詩人であつたのである。
このリルケが最初陸軍幼年学校に入つたのは,何という運命の皮肉であつたろう。粗暴と喧騒と抑圧に充ちていた軍隊生活はとうていリルケのたえ得るところではなかつた。士官になる希望を放擲した彼は,諸所の大学の講義を聴講し,その間に彼の詩人的素質は白銀の輝をあらわしてきたのである。
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