東西詩華集
年の行く夜
長谷川 泉
pp.36-37
発行日 1951年12月10日
Published Date 1951/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200198
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アンリ・ド・レニエはフランスの近代詩人としてはきわめて瀟洒な詩風を持つている。しやれた藝術の香を好んだ若い頃の荷風の好みそうな詩人のタイプである。荷風は名譯「珊瑚集」のなかに,ボードレールとベルレーヌを各7篇づつとつているが,レニエの詩は實に10篇の多きを翻譯しているのである。
荷風の名譯「珊瑚集」については,既に「名詩の鑑賞」のなかでくわしくふれたから,ここではくりかえさない。ただ次のことを指摘しておこう。荷風は「珊瑚集」において,西洋のすぐれた近代詩の餘香を日本に移植しようと企圖したのではなかつた。むしろ思いのままに自分の好みにマツチした詩を譯出してみることによつて,自分の感情と文辭を洗練させようと思つたのである。いわば手すさびとして出來たものである。その意味から言うならば,これと並べて思いうかべられるすぐれた譯詩集である,上田敏の「海潮音」や,堀口大學の「月下の一群」などとは趣を異にすると云えよう。
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