講座 精神衞生
愛は人を生かし,また人を殺す—愛情飢餓
土井 正德
pp.15-18
発行日 1951年4月10日
Published Date 1951/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200063
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
ベテイ・マクドナルドの「病氣と私」をお讀みになつた方は知つていられるでせう。キミという日本人の少女がいます。キミはこのサニタリアムを退院したら,精神醫學を研究しようと決心します。あたしたちはこうして手近かに,めつたにないようなすばらしい研究標本を澤山持つているんだから,あたしは直ぐにてもこの方面で有名になれるかも知れない,というのです。ここでいつている精神醫學は,分析的な精神療法的なものです。
キミが氣が變になつて,錯覺を起して,同室の病氣友達や醫師や看護婦達を,精神病やヒステリーだと思いこんだわけではありません。もともとサニタリアムの雰圍氣というものは,一種特別な精神的な臭いをもつているものではあります。それはフォルマリンや石炭酸やその他いろいろの藥の臭いではありません。病院,工場,凡ての職場には各々獨特の臭いがします。教會,僧院の臭氣は,また永い傳統の特別なもので,この臭いのために宗教裁判があつたり,宗教戰爭があつたりしました。ジャンヌダークはそのために燒き殺されなければならなかつたし,多くの人逹が砂漠と青い海をこえて,十字軍に從軍したわけです。サニタリアムの臭氣もそれほどてはないが,相當凄じい力をもっています。
Copyright © 1951, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.