連載 めざすは正義の味方 月光仮面 福祉の現場から・3
「お近づきの印」
内山 智裕
1
1埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科
pp.549
発行日 2003年6月1日
Published Date 2003/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662100105
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右も左もわからないまま,私はグループホームでの共同生活を始めた。グループホームの入居者は知的障害者12人。入居者が6人ずつの2つのグループホームが隣接し,食堂でつながっている。私が同居する理由は夜間専用の世話人としてだが,未だに入居者は私を世話人と思ってはいないようだ。でも,それでいいのかもしれない。あくまでも私は同居人。一緒に住む友だちとして接し,共同生活ができればそれでいいように思う。
入居して数週間後,私は朝,ふとしたことに気がついた。新品の歯ブラシの毛が日増しに花開き,ペンギンの頭のように広がっていっていくではないか。おまけに,早朝歯を磨こうと歯ブラシを手に取ると,なにやらとてもウエットなのだ。湿った感じ。ちょっと不衛生かもしれないが,私は歯ブラシなんて半年に一度くらいしか替えない。しかし,そんなに強く磨いてもいないから,歯ブラシの毛が四方八方に広がることなど経験したことがない。それでも日を追って歯ブラシは広がっていく。摩訶不思議。その洗面台は私を含め3人が利用している。もしや…? 洗面台の鏡の横には三段になった棚がある。私は歯ブラシの怪を解明すべく,歯ブラシをまず一番下の段,次の晩は真中に,そして次の晩は一番上にと場所を変えておいた。しかし,私の歯ブラシは連日花開き度満点,ウエット度絶好調!! ついには四角だったシルエットがまりものように丸くなってしまった。
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