第5病棟の彼と彼女たち・4
僕は大野連太郎(2)
前浜 政子
1
1国立療養所長島愛生園精神科病棟
pp.417-419
発行日 1976年4月1日
Published Date 1976/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922609
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
連ちゃんと時計
連ちゃんはとにかく時計が好きである.大野連太郎の氏名を知らない人でも,‘時計をはめて,トオツタアツ’と言えば,‘ああそうか’とすぐ通用する.連ちゃんの1日は時計で明けて,時計で暮れる.6時前に起床,メガネをかけ,コーヒーカップにたいせつにしまわれた数個の時計を,左右の腕にはめてから,連ちゃんの1日が開始される.就寝前に,腕からはずされた最低6個,最高10個ほどの時計を,きちょうめんに,時計バンドの紐通しに1個ずつ通し,ビジヨウで止めつけ,丸めてカップに入れる.これを元にもどして1つずつ腕にはめるので,時間を要する大仕事であるから,早く起きなければならない.
この時計なるシロモノ,時間の役目を果たすようなものを想像されたのでは,おもしろくない.文字盤だけ本物.時を刻まぬ古時計.びんのフタに自筆で,文字盤を書きこんだ手製の時計.懐中時計ほどの面積を持った,超特大なプラスチックの時計.主として海岸の流れ物が,連ちゃんの時計となって,2本の腕にさん然と輝き(連ちゃんにはそう見えているとおもう),連ちゃんが最も誇れる大財産として,愛生園では連ちゃんと共に,人気モノになっておさまっている.
Copyright © 1976, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.