第5病棟の彼と彼女たち・3
僕は大野連太郎(1)
前浜 政子
1
1国立療養所長島愛生園精神科病棟
pp.310-312
発行日 1976年3月1日
Published Date 1976/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922585
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ネズミ小僧も顔負け
第5病棟の玄関のドアを鍵(かぎ)で開けて,1歩足を踏み入れると,娯楽室兼用食堂で,右側が管理室,左側が配膳室である.玄関のドアに使用する鍵は1個で,外部や内部の出入りには,この1個の貴重な鍵を利用するより方法がない.そのためには,管理室の外に面した窓の下に鍵入れを備えつけている.通用口は玄関で,あとは非常口になっているから,用事以外は施錠して固くとざされている.1個の鍵が彼や彼女たちにとって,無断外出につながる穴場であり,勤務者には泣き所である.
この穴場をたくみに利用するのが,ほかならぬ大野連太郎君である.その方法はまさに名人芸であって,鍵をあけて外出する姿を見ることは,1年をとおして3度とはない.忍びの者もネズミ小僧も舌を巻いているだろう.
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