人間関係・2
狼少女・カマラの生涯—人間関係の第1命題
大段 智亮
1
1看護人間学教室
pp.389-393
発行日 1976年4月1日
Published Date 1976/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922601
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狼に育てられたカマラ
私たちは,本来,生まれた瞬間からいまあるような‘人間’であり,赤ん坊から大人になる過程は,ただ形が大きくなったり,知的・技術的能力が増大するだけだというふうに考えている.成長ということは,質的な変化ではなくて,量的増大である,というふうに考えているわけである.たとえば言葉をつかう能力についていうと,最初は10の言葉しかわからなかったのが,20となり50となり,やがては何千となって,いわゆる一人前になる,というわけである.
ところが,どうも事態はそんなに簡単ではないらしいのである.いまかりに,生まれた赤ん坊を人間とはちがう動物に育ててもらったとする.最低の生理的条件があれば,それでもその赤ん坊は大きくなる.発達する.しかし,前にのべたような考え方からすると,育てるものが動物であろうと人間であろうと,それは人間になる.そういう方向以外に行きようがないはずである.ところが,どうもそうではないらしいのである.結論を先にいってしまうと,人間は人間同士の関係のなかにおかれ,そこで育てられてはじめて‘人間’になれる,というのである.
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