連載 医学と文明・11
生物気象学
水野 肇
pp.1490-1494
発行日 1973年11月1日
Published Date 1973/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916818
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自然と人間の適応
人間と自然とのかかわり合いの歴史は長い.というより自然と人間のかかわり合いというべきだろう.自然の歴史を聖書1冊分とするならば,人間の歴史は最後の1ページ分にしか相当しないとさえいわれている.‘公害’が問題になって,はじめて自然のサイクルのなかにおける人間が強調されはじめているが,これまでは‘自然と闘う人間像’ばかりが強調されてきた.このため,自然と人間との関係のなかで,ずいぶん重要な問題は多いのだが,医学はその解明を怠ってきたといってもいいだろう.
なかでも,人間にとって最も身近とも思える‘気象と人間’などは,不思議とも思えることが多いにもかかわらず,ほとんど手がつけられていない.たとえば近ごろの子供たちのなかにはゼンソクが多い.これらの原因のすべてを大気汚染とする学者が多いが,そればかりではあるまい.あるとき子供がゼンソクの発作を起こした.しかもこれが,空気のきれいな避暑地のような所で1か月も滞在してから起きる.原因もなにも見当がつかない.ところが,それから2日後に台風が日本にやってきた.この子供は,それ以後,台風のくる2-3日前に,きまってゼンソクの発作を起こす.けれども,この台風とゼンソクの関係は,存在していることはわかっていても,因果関係はほとんどつかめていない.
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