特別寄稿 連載余滴
「セミナールーム・法医学」を終えて
江下 博彦
pp.92-97
発行日 1970年3月1日
Published Date 1970/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914814
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ふたたび法医学とは
12回の連載があっという間に終った。最終稿を書き終えたいま,二つの矛盾した気持が去来する。一つは,ささやかなものでもやりとげたという満足感と快い虚脱感である。法医学の片鱗でも理解してもらったならば,さらにその喜びは大きい。冒頭(4月号)でのべたように,今までの看護教育ではほとんどかえりみられなかった法医学だけに,少しでも読者に親しみをもっていただきたいと,私なりに苦心したつもりである。文体を「会話調」にしたのもその一つである。「あんな文章を書いて,日頃の先生らしくもない」と,強引で鼻柱の強い私の性格を熟知している親しい読者から冷やかされたりもしたのだが,あれはあれなりによかったのだと思っている。
さてその反面,一つの危懼もある。私がとりあげたテーマは法医学のきわめて一部分である。とくに「生と死の間」や「安楽死」は純粋な法医学のテーマというよりは,むしろ「医学倫理」または「哲学」の分野にいれるべきであろう。そこで読者がなまじっか私の書いた法医学のごく断片をのぞき見されて,法医学の概念を知らなかったり,誤認したりすることを恐れるものである。ここであらためて「法医学とは何ぞや」という根本的な分野にふれておくことは,筆者として読者に対する当然の義務だと心得る次第である。
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