M.S.W.の目
生活苦にあえぐ妊婦
中島 さつき
pp.64
発行日 1969年9月1日
Published Date 1969/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914608
- 有料閲覧
- 文献概要
隅田川を渡ると川風とともによどんだ空気が流れてくる。東京都内で下町といわれるこの地区は,中小企業が軒をならべ,低所得者層の多くが生活している。墨田区太平町にある賛育会病院の外来にはいつも患者や家族がごったがえしている。したがって相談室にくる問題も,ぎりぎりの線での人生問題,生活問題がたくさんある。総合病院ではあるが,特に産科婦人科の事例が多い。それでも丙午の年は患者数が減ったが,その翌年には妊娠患者の外来がふえて混雑し,狸横丁の相談員とテレビに放送されたこともある。
その年の暮近く,1人の妊婦が内科へかつぎこまれた。付添ってきた夫がさっそく医療社会事業部へ紹介されてきた。U子はその時33才で妊娠9か月の身重であったが,自宅で脳出血を起こして倒れ,右手半身不随となったまま入院したのだった。そして3日目急に産気づいて1745gの未熟児を出産してしまった。夫は半年前に製菓業に失敗し,借金の返済にあえぎながら働いているが,わずかな賃金なので,とても国民健康保険の半額負担に堪えられない。MSWはまず当面の経済問題をどうきりぬけるか話し合った。そこで内科の費用は母子保健法のなかの入院助産で,生まれた未熟児は同法の養育医療でと方針をたてて,夫はすぐにその手続きを始めた。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.