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大自然に心を洗う—四阿高原キャンプ印象記
鈴木 十九枝
1
1東京警察病院付属学院
pp.90-92
発行日 1964年10月1日
Published Date 1964/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912421
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山路来て何やらゆかし菫草
先日色紙に筆を走らせた芭蕉の句を思い出して,ふと足元の可憐な花に歩を停める。朝の冷気を胸いっぱいに吸い込んで四阿高原への一歩を踏み出した一瞬……。夜汽車の疲れも肩に背負った重いリュックもなんのその,一行の軽快な足取りは各々が3日間のキャンプ生活に空想をめぐらし,嬉しさに思わず顔がほころんでいた。終日,都会の雑踏にもまれて新緑の芽吹きを意識することもなく,草の香に親しむことのない私たちは久し振りの自然がこよなく懐しく木々の一つ一つが双手を挙げて歓待してくれるような錯覚さえおきる。
信濃路の山々はまだ春の名残りをとどめ,菫草,タンポポの花,スズランの香り,そして深緑にひときわ彩りを添えた満開の山つつじ,これらの自然の草花は幼い頃,野山に駆けて遊んだふるさとの山々の匂いをそのままに反映している。
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