医療の焦点
薬とその周辺
水野 肇
pp.88-89
発行日 1964年9月1日
Published Date 1964/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912377
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「日本ぐらい薬が自由化されている国はない」といわれている。テレビのコマーシャルでは,まるでその薬を飲めばポパイのように力持ちになるかと思うぐらいのPRが行なわれているし,どんな印刷物をみても,薬の広告のないものはないといってもいい。一方では,抗生物質ホルモン,トランキライザーのような医師の処方を必要とするようなものまで薬局の店頭で手軽に買える。それに加えて,このところ,サリドマイド禍,強肝剤論争,黄体ホルモンの奇形と話題も豊富である。—こういった情勢からはたして薬の問題は,いまのままでいいのかという疑問が識者の間で真剣に考えられている。
大量生産される保健薬
薬の問題点は実に多い。まず第1に,日本入は極端に薬好きの国民である。とくにいわゆる大衆保健薬といわれるものは,37年度でさえビタミン550億円,代謝性医薬品135億円,滋養強壮剤140億円など前年にくらべて3割以上の増産である。全部が日本で消費されたわけではないが,ともかくすさまじい売れ行きを示している。日本は,むかしから医師のことを“くすし”といっていたように,薬を与えるというのが医療行為の本流だった。東洋医学であったためだ。“くすりにしたくもない”というコトバがあるように,くすりが貴重品であるという考え方が国民の間にも根ざしている。
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