社会病理と精神衛生・1
犯罪
高木 隆郎
1,2,3
1京都大学医学部付属病院
2京都大学付属看護学校
3同志社大学文学部
pp.58-60
発行日 1963年9月1日
Published Date 1963/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912020
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生まれつきの犯人
人間の行動が,その生物学的,心理学的,社会学的要因から規定された全一体であること,つまりパーソナリティは遺伝と環境の相互作用によって形成されるのだという考えをいちばんはっきりと示してくれるのは,犯罪とか非行とかいわれる現象である。もっとも古くは,天才や精神薄弱などと同様に,それはひとえに,ある特別な〈ひと〉によるものだと信じられていた。破爪病や緊張病の概念をほぼまとめあげたほどのドイツの犬精神医学者カールバウムが《道徳の線維系の発達障害》であるといったのは前世紀後半であり,今世紀の初めまでは,イタリアの犯罪精神医学者ロムブローゾのとなえた〈生まれつきの犯人説〉が,遺伝体質学的な最初の研究であっただけに支配的であった。もちろんこうした宿命論は今日では否定されているが,その研究の流れは二つの方向にわかれて発展した。ひとつは原因論というよりも広い意味での素因論で,たとえば犯罪者にはクレッチマーの分類による肥満型が少なく闘士型が多いとか,最近では一般成員よりも異常脳波の出現率が高い(とはいっても研究者により20%から80%という幅がある)などという種類である。もう一方の流れは,「泥棒の子は泥棒」という事実を悪い家庭,その生育環境によって説明しようとする立場である。この主張は今世紀の初めからアメリカのヒーリーらによって,矯正教育という実践をへてはなはだ進歩的に発展した。
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