医療行政の動き
精神衛生の動向—とくに精神病院におけるリハビリテーションとソーシャルワーク
百井 一郎
1
1厚生省公衆衛生局精神衛生課
pp.44-47
発行日 1963年9月1日
Published Date 1963/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912016
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1.精神衛生の重要性
WHOは健康の定義について,その憲章で,「健康とは,肉体的,精神的並びに社会的に完全に良好な状態であって,単に疾病や虚弱でないということだけではない。」と述べている。したがって,健康な人は変化する生活環境の中において常に調和的に,積極的に活動し得,また,その能力を十分にもっている。最近,人間を広く理解するうえで,また,人間科学の研究において人間を単に生物学的な存在としてのみでなく,心理的,社会的存在として考えるようになり,精神医学,優生学,心理学,人類学,教育学・社会学,文化人類学などの諸科学の結合のうえに広く人間の科学的研究が行なわれつつある。そのうちでも,特に精神的健康の研究とその事業の推進が強調されるよらになってきた。
精神衛生は精神の健康に関する衛生で,それは単に精神的不健康を予防するとか治療するとかばかりでなく,積極的に精神を健康な状態におこうとすることが目的である。精神的健康とは,自分の欲求と社会的要求との間,また,欲求と欲求の間に矛盾衝突がおこり欲求不満の状態に陥っても,容易に反社会的行動に走ったり,不和や葛藤をおこしたり,自殺に走ったり,神経症にかかったり,その他いろいろな適応障害になることなく,むしろ,これらの問題や障害を自ら積極的に解決し,社会環境に適応して調和ある生活を営む心の状態であり,その能力を有することである。
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