Nursing Study
一狂暴患者の生活記録
須磨
1
,
吉川 後藤
1
,
村越 鈴木
1
,
大沼 荒井
1
,
仁平 平山
1
1沼津精神病院
pp.77-79
発行日 1963年4月1日
Published Date 1963/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911912
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近年,精神病院においては,薬物療法の発達とともにいちじるしく開放的かつ人間的になってきた。しかし反面,これら薬物療法その他の治療にも限界があり,どうにもならない長期保護室生活をさせねばならない患者が少数ながら存在するものである。このような患者にも医師および看護者のたゆまぬ働きかけにより,いちじるしく好転するものであることを身をもって体験したので,ここに報告する。
患者Yさん(分裂病)は36歳の男性で,入院歴3回を数え,われわれ沼津精神病院に少し古くからいる人なら従業員,患者の別なく知られている知名の人である。今では熱心に,陰ひなたなく作業療法に参加し,態度も柔かくひかえ目で,たいへん人望のあつい患者さんであるから,最近のYきんしか知らない人は,その有名となったそもそもの由来を想像できないことである。彼は入院以来10年間というものはほとんど保護室内で生活をし,それもYさん用の特別仕立の頑丈な室に居住し,まったく外気に触れることなく,誰でもこの人がこの部屋より出たらたいへんだということで,ただ厳重に閉じ込めることのみに細心の注意をしているだけがせいいっぱいの患者さんであった。そのため,恐る恐る遠くから,あたかも動物園のライオンでも見るようにのぞいて,ほえるような彼の声を聞き,身ぶるいしていたのである。
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