ナースの手記
山茶花から/ある母と子
南雲 しのぶ
1
,
近藤 靖子
2
1京都国立宇多野療養所
2新潟看護学校
pp.66-67
発行日 1962年1月15日
Published Date 1962/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911553
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「冬も間近かネ朝夕の冷えますこと」こうしたことばの交される頃,滑らかな幹に手を組み合い,そして健固な葉,色,厚さ,そうした中にポット紅・桃・白色と静かにも美しく咲けるのは山茶花である。寒さに耐え得た花といつた感を有し乍ら。
冷たさの中で人の心を慰めてくれる山茶花に気付いたのは,京都に住むようになつて三度の冬を迎えようとしているある日のことである。庭先に孤立したもの,植込みになつたもの,窓辺に笑みかけているものと,種々の様相を呈している。全てのものが自己の生命をエンジョイして,冬の眠りに就こうとしている時に,自らの天命ともいうべき開花期をわきまえ知りて静かに雄々しく咲いている。木枯に落されたもの,生命をまつとうして大手を振つて落ちるものとで樹の周囲は花弁でかざられる。しかしその後は時をあけずして次の蕾がふくらんでいる。こうして月をかけて咲き続ける,長く,強く,そして自己の存在を主張することなく無心に……
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