教養講座 詩の話・10
感受性のことなど
山田 岩三郎
pp.42-44
発行日 1960年9月15日
Published Date 1960/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911163
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“見えないものを見たと確信するところから詩が生じる”と,前回,8月号に書いた。その原稿を本誌の編集部におわたししたのは5月のはじめであつたが,それから旬日のちに,ときの首相が,安保批准の政治問題に関して,“声なき声を聞く”と揚言した。私はこの報道を載せた新聞紙を手にしたとき,ひとりで大笑いをしてしまつた。それから,困つたものだと思つた。
困つたと感じたのは,本稿の“見えないものを見る”という私のことばは,8月号に掲載される。あたかも,ときの首相のことばに似たことを借用したかにとられそうである。と,感じたことも1面だが,なによりも,1国の首相が,そうしてとうぜん1流の政治家であるべき者が,現実から遊離したこうしたことばを,ことのほか重大な政治の問題の中にもちこんできたことに,私は私なりに当惑を感じたのである。
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