——
伝染病棟の看護生活から
S.I.生
1
1都立駒込病院
pp.41-44
発行日 1956年6月15日
Published Date 1956/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910999
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
これから私の生活の一頁を開いて看護婦としての精神的及び肉体的な労働に於ける数多くの悩みと,希望の一端を紹介し諸兄・姉の忠告をお願いしたく思います。
まず8暗から勤務開始(日勤)は,オフイスと同様だが純白な衣服をまとい冬夏の間にも下着一枚の相違があるのみ,それでも決して寒くないのは自分ながら不思議な位である。新鮮な大気の中に白い息をはきながら病室へ,向う自然の清らかさはまるきり失われた薄暗いしつとりとした空気へと移る。何とも云えない臭いの中に苦痛に満ちた顔々々。その中にも一輪の花がせめてもプンと香をはく,私達が病室へ顔を出すや,仕事の山積である。病める人々は他者をかえりみる数秒もない唯自分の不安で一杯なのだ,私達(若人と云おう)もここでは,洗礼された母親でもある。自我を殺し一分も早くその仕事を処理せねばならない。何十入もの人々の食事の仕度とその後始末から,汚物の処理,又薬を与え,次々と,帰る迄の連続である。私達の食事すら5分位の所で済まさねばならない,患者へのやさしい言葉も,電流の様に耳を走ることだろう。慰安の言葉もかけてあげる暇もないのが現場の様だ。朝の掃除で午前中のお業は終る。ここには完全看護の名目のもとに我々は血まなこになつて走り廻つている。
Copyright © 1956, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.