連載 思い出すけっち[あの人、あの時、あの言葉]・29
伝染病棟からの生還と死
川島 澄子
1
1岐阜県立岐阜病院
pp.446-447
発行日 1992年5月1日
Published Date 1992/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661900634
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「こころあらば夢にも見せよコタパルの波間に消えし君の面影」
太平洋戦争の当初,私は臨時香港第一陸軍病院に配属されていましたが,この時受け持った患者さんが,この歌を詠みました.この患者さんは,召集される前は,お茶とお花のお師匠さんでしたが,補充兵として召集されたのは30代も後半だったということでした.軍隊に入って生まれて初めて洋服というものを着,靴というものをはいたということでした.召集間もなく南方に派遣されたのですが,老兵を乗せた輸送船は敵前上陸を前にして,敵機の砲弾を受け沈んでしまったということでした.戦わずして多くの戦友を一挙に失った悲しみ,そして生き残った者の苦衷がしのばれました.
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