ナースの作文
防音扉,他
中瀬 幸子
1
1三重県高茶屋病院
pp.65-69
発行日 1959年3月15日
Published Date 1959/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910819
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季節を問わず,患者の転出入の激しいこの病棟勤務も,早,1年あまりになつた。鉄筋コンクリートの焼けつくような暑気を凌ぐのに,屋根の上から,各室毎にホースで散水したり,全裸で騒いでいる重篤者の室を特に保温するため,昼夜,燃し続けるストーブの石炭を運んだのも,今となつては私の貴重な試練と体験であつた。がまたその季節が廻つて来ている。
この重症病棟の思い出の中には,私の陽気な気紛れさを充分に満足させてくれた種々の出来事があり,その一つ一つが人生の悲喜劇の縮図であつた。その演出者は皆善良で私にはかけがえのなかつた友達であつたといえよう。いつ交替があるかも知れない。でもこの机や,ちびた,箒,甲板ブラシ等,私は今更のように懐しく,微笑をもつて眺められる。その上,勤務割に忠実だつた勤務員の,過労ではないかとさえ危ぶまれたすばらしい忍耐力に,私は感謝を忘れてはならないと思う。
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