ナースの作文
奪うもの
木元 一恵
1
1茨木病院
pp.40
発行日 1958年5月15日
Published Date 1958/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910600
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恋愛は互いに異つたもの,無いもの同士が牽引することだが,友情は似たものが互いに認め合うことであると思う。それも最初に出合つた最もプリミテイブな状態でのことであるが。しかしそれは最後まで貫く本質的な関係でもあると思う。友情は同じような物の出合いであり,愛情は多くは対象的なものの出合いだといえる。人間のエゴイズムの本性に従ってまず相手の良い所を見つけ出す。そしてその人より富を(心の富を)得るために良い所を見つけ出すのだ。「奪う」ためともいえるが,悪意ある裏切りや利用では絶対にないのだ。
同じ立場に置かれた同僚との生活的な親近感,そんな感情が育ち,何かの衝動によつて,相手をある特定の感情の対象として意識するようになつたら,それが友情の始りであると私は思う。八方美人的な人には相手の中に「特定」なものを意識していない上すべりな感じで自己を表わさず,友達の間にも浮薄であり,真の友情ではないと思う。八方美人は人間的な交渉に入らず,人づき合いが良いといわれながらも,道化師が多い。相手から来る反応を何ら受け入れず,また受け入れる能力もなく,従つて自分も自分自身を曝け出しているのではなくて,振られた役割を演じている……そんな傀儡としか私には見えないので,直接触れ合えない所で一人踊るガラスの中の人形のように美しいだけ。そんな風に見えるのは私の偏見だろうか?
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