医学の話題
年の始めに,他
K
pp.35
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910557
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1957年科学界のトピツクは何といつても人工衛星だつたろう。広島長崎の原子爆弾に始まつた原子物理学の応用がこの10年有余に目覚ましい発展をとげ,ついに人工衛星の登場となつたわけだ。しかし一時はあれほど騒わがれ,漫画にさえ,恐ろしいものの代名詞にストロンチユム90という言葉が使われたほどだつた“放射能障害”の方は,いつとはなしにこの人工衛星の蔭にかくされてしまつた。だが,我々が即刻に現われてくるものではないにしろ“放射能障害”という事実を寸刻でも忘れてはならないのだ。現在の放射線学会では極く微量の放射能が人体に及ぼす影響を重大な問題としてとりあげているのに,ストロンチウム90をはじめセシウム137,プルトニウム239などの放射性物質が日本の大気・地面・雨水更には各種の食品の中から続々と検出されている状態は黙視できない。しかもこれは煙草の肺癌の問題とは全く違つて好むと好まざるとに拘わらず間断なく我々の身の上にふりかかつてくる災難だ。新らしい年の始めに当つて,とても人工衛星などの及ばない我々日本人が華やかな面のみでなく原子物理学の進歩の生んだ悲しい恐怖を1日もはやく人間世界から駆逐する道を切り開くよう,一人一人がもう一度この問題を考えてみようではないか。
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