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外国映画鑑賞の手びき
野口 久光
pp.41-43
発行日 1957年5月15日
Published Date 1957/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910355
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☆「ベビイドール」(ワーナー映画)
「欲望という名の電車」「波止場」「エデンの東」などこれまでの作品にもハリウッド映画に対する反抗精神にみちた型破りのアメリカ映画を目指してきたエリア・カザンがまたまた異色ある新作を物した。舞台俳優から舞台演出家となつた彼はアメリカ映画の甘さ,ウソを長年やり切れないものと感じていた芸術家肌の人だが,それだけにいつもアメリカの影の部分,暗い現実のなかから取材して,血の通つた人間像を描こうとしてきた。こんどの「ベビイドール」も前諸作に劣らぬ暗い題材で,異常なそして醜い人間心理を冷酷にえぐつてみせるのである。
原作は「欲望……」の作者テネッシー・ウィリアムスの書きおろし(といつても実は彼の古い一幕物をもとにしている),アメリカ南部の寒村を舞台にしたものである。ミシシッピー下流のデルタ地方の綿園にかこまれた旧家らしいボロ屋敷に住むアーチーは,棉花の精製を業としているが,近くに新式の工場が建つために工場を閉めなければならない。その上初老に近い風貌の上らないアーチーには「ベビイドール」の愛称で呼んでいる若妻があるが,この女は未だに夫に肌を許していない。ベビイドールは19歳になるが知能の程度も低く,一人前の女になり切つていないが,虚栄心だけはやけに強いので,惚れた弱味のアーチーは御気嫌とりに大童である。
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