特集 ナースに必要な癌の知識
癌の病理
緖方 知三郞
1
1東京大学
pp.75-80
発行日 1954年4月15日
Published Date 1954/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909552
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現在私共が医学術語として用いている「癌」或は「癌腫」は,昔乳癌がごつごつとして硬いところから,これを巖(がん即ちいわお)にたとえて,乳巖,乳岩,乳嵓といつたところから,それ疒に(やまいだれ)が附せられて乳癌と書くようになり,ひいて広く「癌」或は「癌腫」(癌腫というのも旧い文献にはある)という術語が出来た。癌のことをフランスや英国ではCancer,独乙ではKrebsといつているが,これは蟹(かに)のことである。これも形態上の類似からその語原が生じたものである。私は緒方富雄と共著で昨年「癌腫の歴史」という本を出版したが(大阪永井書店刊行),その冐頭のところに,今日西洋医学では癌腫のことをCarcinoma(Karzinom)といつて,その語原から考えて「蟹腫」(かいしゆ)と直訳してよい術語が使われるようになつたわけを精しく説明して置いたから,興昧のある方は参考してほしい。
申すまでもなく癌腫は惡性腫瘍の一種で,しかもその主なものであるが,惡性腫瘍には癌腫以外に肉腫というのがある。癌であつても又肉腫であつても,病理学上の立場からいうと,何れも惡性腫瘍としての本態は同一である。たゞそれが発生した元の組織細胞(発生母地)が上皮性のものである場合に癌腫と呼ばれ,上皮性以外のもの即ち非上皮性のものである場合に肉腫と呼ばれることになつている。
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