希望訪問
石垣純二氏—女性に對する愛情と理解
板持 淳子
pp.42-46
発行日 1950年5月15日
Published Date 1950/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906651
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疲れた人
ラジオ・ドクターに會つてルポしてほしいという讀者の希望によつて私がNHKに探訪を試みることになつた。3月の半だというのに肌塞いきちがい陽氣の一日であつた。午後3時半かつきりに放送會館の正面の扉を押した。いつ來ても清潔な建物だ。氣をつけないとツルリと行きそうだ。外人の出入りの多いこの廊下で醜態をさらしてはと思うと,餘計に爪先きに力が入つてすべりそうだ。スケートと同じことだ。二階の十二スタジオに行く。細長い廊下の突き當りだ。早十人位の客がつめかけている。病人らしい人が多い。記者らしい人もいる。「これは大變,いつになつたら會えるかしち」とちよつと悲觀する。防音装置になつた厚い戸が内側から押し開かれて一人の脊の高い人が出てくる。5尺8寸くらいもあろうか。濃い茶の脊廣を着て,その袖口から白いワイシャツの袖が出ているのが印象的だ。分の厚い金縁目鏡をかけている想像していたよりも沈欝な蒼白い顏が氣になる。しかし神經質な顏ではない。疲れた人というところである。廣い額のあたりに一種の憂愁が流れている。その人は私の前にいた粗末な身なりの中年の婦人に,「私が石垣ですが」と穏やかな聲で言つた。放途で聞くのと少しも違いの無い聲だ。ちよつと關西なまりがある。しかしよく透つた聲で,大變軟い。その中年の婦人はくどくどと自分の病氣の話を始めた。
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