発行日 1948年12月15日
Published Date 1948/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906402
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「………無知で何の取りえもない,從つて賃銀もやすい年寄りの女が,病院や家庭にやとわれて,病人のためにいろいろと世話をします。しかし,實際にはどんなことがおこなわれているでしよう。彼女は,自分のみいりになることなら平氣で自分の地位を惡用し,2,3の患者からわいろを取り,他人にはお構いなしに,醫師の命令に反して,禁制の食物を與えます。患者にアルコール性飲料が必要だとなりますと,その大部分は自分が飲んでしまつて瓶には水を足して置きます。彼女は病室内でしばしば煙草をのんだり阿片を吸つたりもしますし,夜のつとめに眠つてしまうのも平氣です。彼女は讀み書きも出來ません。又,どこかの奧さんに效いたから丁度良い藥だといつて,患者の妻や母にすゝめたりもします。若し患者が囘復すれば,その手柄は自分のものとし,患者が死にでもすれば,醫者が殺したのだと云いふらします。このような教育のない女ですから,生理や衞生や適當な換氣や食餌などについては何一つ知りません。
屡々私は,絶對安靜の命ぜられている病室に入つて,親類縁者や近所のものが部屋に一ばいいて,聲高にいろいろな治療法を論じ合つたり,醫者のよしあしを云い合つたりしているのを見ました。煙草をのんでいるものがあるかと思いますと,患者の快癒を神に大聲で祈つているものもあります。一方,ドアも窓もしめ切つて,蝋燭だの火鉢の火だの香だのが燃えたり,たかれだりして,患者の生命にあれ程大切な酸素を燃しつくしてしまいます。
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