発行日 1947年1月15日
Published Date 1947/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906164
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
日本の現況 ペニシリンほど,ここ數年來世間も學界も大騒ぎした藥剤はないであらう。そして次々に驚異的な事實が報告されてゐる。それにも拘らず實地にあたつて居られる皆さんには實物がなかなか手に入らぬと云ふことに御不審があらうと思ふ。まづそれから御話をしたい。なにしろ我國ではあのはげしい戰時下,僅かな文獻をたよりに各學者が協力してやつとペニシリン産生の青かびを發見する,それから其の培養液からペニシリンを抽出する,精製すると云ふところまで漕付けたところで終戰になつたのである。そこで製藥會社が製品にしようと必死になつて努力したが戰時及び戰後のあの混亂と資材缺乏のなかとて,なかなか思ふやうに行かなかつた。それが漸く最近數社により曲りなりにも製品となり販賣も始められるやうになつたのである。しかし一方,ペニシリンの本家の英國と米國とでは製品の増産は勿論のこと,ペニシリンの本態もつきとめる事に成功して更に飛躍した生産に進んでゐるのである。即ち米英と我國とを比較してみるとあまりにもかけ離れた状態になつてゐて既に米英では製造法も大量生産となり全く工業化して來てゐるし,ペニシリンの化學構造式もわかり合成の研究も進んでゐるしするのに我國ではいまだに實驗的試製的な品物しか出來ない有様であるからペニシリンの自由販賣どころではないのである。かくて先般來朝(昭和21年11月)の專門家フオスター氏を中心としで日本のペニシリン生産に盡力して貰ふことになつた有樣である。
Copyright © 1947, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.