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気分次第読み放題・8
『ある女』—(アニー・エルノー著,堀 茂樹訳,1993年)
武井 麻子
1
1日本赤十字看護大学
pp.782-783
発行日 1999年8月1日
Published Date 1999/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905909
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女としての人生を考えるとき
最近,朝日新聞で母と娘をテーマにした特集が大きな反響を呼んだ.昨年末にはそのアメリカ版ともいえる『母と娘』(C.セイライン文・S.J.ウォールムス写真,メディアファクトリー刊)が日本でも翻訳され,出版されている.フェミニズムがさほど奇異な目でみられなくなった今,ようやく母と娘という女どうしの深く葛藤に満ちた関係に,人々の関心が向けられはじめたといってよいだろう.
昨年11月,やはり朝日新聞のあるコラムに掲載された俳優の黒田福美さんのエッセイにも,淡々とした筆致の中に独特の母と娘の葛藤が描かれていた.不仲な両親の間の一人娘で,母親の愚痴の聞き役だった黒田さんは,みずからを「元祖拒食症児」という.友人の勧めに助けられて,家出のようにして独立したとき,彼女は34歳になっていた.はじめての自分の城となった部屋は,「自分の正体」そのもののように思えたと彼女はいう.その「実家とは似ても似つかない家」で,それまで母親に「あなたの女中じゃない」とかんしゃくを起こされながら,何から何までやってもらっていた彼女が,意外にもまめまめしく掃除,洗濯,料理に精を出すようになった.そして自分が仕事をもちながらも立派に家事をこなしていることを思うにつけ,専業主婦だった母親からかつて恩きせがましくいわれたことが腹だたしく思い起こされるのだった.
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