フロントライン'99 ターミナル
老人医療に“線”は引けるのか—ターミナルケア論争を読む
真部 昌子
1
1川崎市立看護短期大学
pp.58-63
発行日 1999年1月1日
Published Date 1999/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905751
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白熱した議論
昨年,『社会保険旬報』誌上で老人医療とターミナルケアをめぐって大きな論争が展開された.
ことの起こりは,1997年秋に財団法人長寿社会開発センターから出された『「福祉のターミナルケア」に関する調査研究事業報告書』である.この中で,日本赤十字看護大学の竹中文良教授が「今日,日本の多くの医療現場で脳死問題よりはるかに重く医療者を悩ましているのは高齢者への医療である.“高齢者に関して医療をどこまで展開するか”,“医療から福祉主体に移行させるターニングポイントはどこか”と言う難問である」と述べ,さらに「91歳で完全な痴呆状態の女性患者に透析が行われもう3年になる.医療者や家族の思いとは別に透析を中止しようという積極的な意見は何処からも出てこない.94歳の男性は脳梗塞を繰り返し痴呆状態,最近嚥下不能となり胃管の挿入も不能となった.主治医は中心静脈栄養を行い状況の回復をまって腹腔鏡手術による胃瘻造設を計画している」と具体的な事例をあげて問題を提起した1).また,同報告書で千葉大学の広井良典助教授はイギリス・スウェーデンのターミナルケアの現状と動向,わが国の特別養護老人ホームにおけるターミナルケアの現状と課題を述べ,ターミナルケアは医療現場だけではなく福祉施設でも展開されるべきではないかと提言した2).
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