連載 買いたい新書
—呉那加 文(くらなか ぶん)著—『夜の透析室から』
高橋 幸枝
1
1東京大学大学院医学系研究科・健康社会学
pp.1088-1089
発行日 1997年11月1日
Published Date 1997/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905474
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面と向かっては言えない….けど,言わずにはいられない患者から看護・医療へ伝えたいこと
本書を読んでいるうちに,学生の時に成人看護学内科実習でかかわった67歳の女性の慢性腎不全の患者さんを思い出した.彼女は,左手首に内シャント形成術を終えたばかりであった.スムーズな透析導入と,今後の栄養指導を中心とした患者教育をすすめるというのが彼女の入院の主目的であり,実習生としての私に課せられたその時の課題であった.彼女にとっては透析導入というこれまでの人生にはなかったことを生活の一部に組み入れることから逃げることもできず,いろいろ思っていたこと,学生としての私や指導者・医療スタッフに言いたいことが山ほどあったに違いない.だのに,まったくおかまいなしに,こちらの立てた計画を一方的に押しつけていただけ.読みながら,そんなことを考えていた.
本書は,まったく無名の—患者(正確には,現在は腎移植後フォローアップを受けている人)の目を通してみた医療のありようである.今日,社会的に知名度が高く影響力のある,そういう人の闘病記やルポルタージュが多数出版されている.それらはそれなりに社会や保健医療に与えるインパクトを持っているのは言うまでもない.
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