特別記事
末期医療における看護者の刑事責任—いわゆる「東海大学病院『安楽死』事件判決」を素材にして
加藤 久雄
1
1慶應義塾大学・刑事法・医事法
pp.1040-1048
発行日 1995年11月1日
Published Date 1995/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661904931
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問題の所在
平成3(1991)年4月13日に東海大学付属病院でおきた担当医による「末期がん患者」殺害事件で,横浜地方裁判所は,事件発生から約4年経った平成7(1995)年3月28日「被告の医師が『患者に塩化カリウムを注射して』故意に殺害した」として懲役2年・執行猶予2年(求刑懲役3年)の「有罪」判決を言い渡した.
この判決の持つ意義や特徴についてはあとで詳しく検討するが,ここではこの判決が今後の末期医療に携わる医療スタッフに与えた影響についてだけ指摘するにとどめておこう.すなわち,本判決が,被告の若い医師だけを「殺人」罪(者)として断罪し,同じ医療チームの先輩担当医や前任担当医,担当看護婦,さらには被告人に対し何回にもわたり,しかも激しく「父親殺し」を教唆した長男などは起訴もされず,彼らの刑事責任はまったくの不問に付されたことに対して,特に現場の若い医師たちの間で「私は『殺人者』にはなりたくない」という意見が続出し大きな波紋を広げているのである.
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