連載 考える
続・家族の肖像・8(最終回)
百か日(ひゃっかにち)
柳原 清子
1
1日本赤十字武蔵野短期大学
pp.760-764
発行日 2000年8月1日
Published Date 2000/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661903532
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訪れたのは,春の農村だった.山の頂きに登って眺めれば,田の水がキラキラ輝き,その輝きの中を道が通り,川が流れ,家屋敷がポツリポツリと点在する.たまに走る車が豆つぶのようだ.里では,野良着姿の人々が手ぬぐいを頭に巻き,その上から帽子をかむり,腰をかがめて働いている.
「うらさのばあちゃん」と呼ばれている太田さんを訪ねたのは,そんな情景の中だった.
太田さんの家の前に立って,思わず,ほおっ,と思う.今ではめずらしい「かや葺き屋根」の家だった.土間を入ると,一段高い所に茶の間があり,その真ん中に昔のいろり跡が今はこたつとなっている.水場(台所)も土間であり,馬屋は子供部屋に模様替えされていた.便所はもちろん家の外で,「外孫がやって来ると夜,便所へ行けないと大騒ぎだったんだ」と太田さんは笑う.築150年は経つとのこと.
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